Netflix『BEAST〜私のなかの獣〜』レビュー
イントロダクション
作品情報
- 原題:The Beast in Me
- 邦題:BEAST〜私のなかの獣〜
- 配信・放映形式:Netflix 独占配信、全8話(リミテッドシリーズ)
- ジャンル:サスペンス/スリラー/心理ミステリー
- 主な製作スタッフ:ショーランナーに ハワード・ゴードン(『HOMELAND』)等。
- 出演:クレア・デインズ、マシュー・リス、ブリタニー・スノウ、ナタリー・モラレス など。
- 配信開始日:2025年11月13日(予告・報道による)
- 視聴可能サービス:Netflix で見放題(2025年10月時点)
キャスト紹介
- アギー・ウィッグス(演:クレア・デインズ)
著名な作家。幼い息子を亡くした悲しみから抜け出せず、創作も人付き合いも停滞していました。ナイルという謎の隣人が現れたことで、再び“書く意味”を問い直すことになります。 - ナイル・ジャーヴィス(演:マシュー・リス)
成功した不動産王。かつて妻の失踪事件の容疑者とされており、不気味な魅力と謎に包まれた男です。アギーの隣に引っ越してきたことが物語の発端となります - ニーナ・ジャーヴィス(演:ブリタニー・スノウ)
ナイルの妻。画廊を経営しており、夫の過去・事件に関わる重要人物。 - シェリー・モリス(演:ナタリー・モラレス)
アギーの元妻(同性婚という設定)で、アギーの人生・過去をよく知る人物。
ネタバレありあらすじ
息子を交通事故で失った作家アギー・ウィッグスは、世界から切り離されたみたいに生きている。
加害者は地元の若者テディ・フェニッグ。アギーは彼を恨みながらも、何もかも止まってしまい、小説も書けないまま時間だけが過ぎていた。
そんなアギーの隣に越してくるのが、不動産王ナイル・ジャーヴィス。
表向きは穏やかで魅力的な紳士だけど、彼には“ひとつの噂”がまとわりついている。
「ナイルの元妻マディ(マディソン・イングラム・ジャーヴィス)が失踪している」
マディの家族は「彼が殺した」と信じていて、メディアも世間もナイルを“モンスター扱い”。
一方ナイルは「僕はやってない。勝手に出ていった」と主張している。
◆ マディの失踪に惹かれていくアギー
アギーはナイルの“マディ失踪事件”に強く惹かれる。
息子の死で止まっていた作家としての本能が、「この男を書きたい」と騒ぎ始めるからだ。
・テディに対する怒り
・息子を失った喪失感
・誰かの闇を物語に変えたい欲望
その全部が、ナイルとマディの事件に重なっていく。
ナイルの今の妻はニーナ・ジャーヴィス。
ナイルと一緒に郊外でひっそり暮らすギャラリストで、妊娠中。
彼女は「夫は怪物じゃない」と信じたい気持ちと、「本当は何をしているのか」という恐れのあいだで揺れている。
◆ マディの影と、ナイルの“本性”のチラ見え
アギーはナイルの取材という名目で、彼の過去に踏み込んでいく。
マディの家族(イングラム家)に会い、
- マディが鬱状態にあったこと
- ナイルとの結婚生活が決して順風満帆ではなかったこと
- 「ナイルは危険な男だ」と家族が信じていること
を聞かされる。
同時に、アギーの生活圏にはテディもまだ存在していて、彼の“その後”も物語に絡んでくる。
アギーはテディを許せずにいる一方で、どこかで「彼もまた別の被害者なのでは?」という迷いも抱き始める。
FBIのブライアン・アボットは、ナイルの過去の不正やマディ失踪を追う捜査官。
彼はアギーに接触し、「ナイルにはまだ隠された犯罪がある」と耳打ちする。
ここから、アギー・ナイル・FBI・テディ・マディの影が、複雑に絡まり始める。
◆ マディの「本当の結末」と、ナイルの獣
やがてアギーは、ナイルの真相に近づいていく。
- マディは“単に消えた”のではなく、ナイルの犯罪をFBIに密告する協力者になっていた
- ナイルはそれに気づき、マディを“裏切り者”として追い詰める
- 表向きは自殺に見えるよう工作され、彼女の遺書までも利用されていた
そして決定的なのは、マディの遺体がナイルのビジネスの基礎——彼の会社の建物の土台に埋められていたという事実。
これは、ナイルの父マーティンや叔父リックも関与した“ファミリーぐるみの隠蔽”だった。
同時進行で、テディもナイルにとって“邪魔な存在”になっていく。
ブライアンが「テディはまだ生きている」「ナイルに脅されている可能性がある」という証拠を掴み、対峙した瞬間——
ナイルはブライアンを冷酷に殺害し、さらにテディまでも始末し、全ての罪をアギーに被せる形で工作する。
このあたりで、視聴者はハッキリ知ることになる。
「ナイルは“かもしれない”どころじゃなく、完全に獣やん…」
◆ アギーの“獣”と、ニーナの選択
追い詰められたアギーは、もはや作家でも観察者でもいられない立場になる。
逃亡者として追われる中で、最後の頼みの綱としてナイルの現在の妻ニーナの元を訪ねる。
ここで物語は、**マディ(過去の妻)/ニーナ(今の妻)/アギー(外側から見ていた女)**という、
三人の女性の目線が交錯する形になる。
ニーナは、最初はナイルを信じたい。
でも、アギーの話とFBIの情報、そしてナイルの態度の変化から、
「この人は本当に危険な人間かもしれない」と悟っていく。
最終的にニーナは、ナイルとの会話を密かに録音し、
マディ殺害の事実と、テディやブライアンに対する犯行を引き出す。
その録音が決定打となり、ナイルは逮捕。
裁判の末、罪を認めて服役することになる。
◆ エンディング:マディの物語から、「私のなかの獣」へ
時が経ち、アギーは「The Beast in Me(私のなかの獣)」という本を出版する。
それはナイルとマディの事件だけでなく、
- 息子を失った自分自身の傷
- テディへの憎しみとその変化
- マディという“見えなかった被害者”
- ニーナの決断
全部を含んだ物語になっていた。
ラストでは、ナイルが刑務所で刺されて命を落とし(これもまた家族内の報復の一部)、
ニーナはナイルとの子どもを抱きながら、アギーの本を静かに読んでいる。
アギーのナレーションはこう問いかけるように響く。
「獣は、ただ“あの男”の中だけにいたわけじゃない。
私の中にも、あなたの中にも、最初から棲んでいたのかもしれない。」
——そして、物語は静かに幕を閉じる。
私の感想
このドラマ、観ててまず思ったのが——
「クレア・デインズ、あの“ロミジュリ”からどれだけ時間が流れたんや…!」
ちょうど先日、久しぶりに『ロミオ+ジュリエット』を観返したばかりだったので。
あの時のクレアといえば、透明感えぐい天使みたいな17歳。レオ様と水槽越しに目が合うあの瞬間なんて、永遠に語り継がれるレベルの美しさやった。
で、そんなジュリエットが——
『BEAST〜私のなかの獣〜』では、人生の痛みを全部背負ったような顔をしてる。
正直、こう思ってしまった。
「老けたな……でも、それがめちゃくちゃ良い。」
あの頃の無垢さのかけらもない。
代わりに、
・母の顔
・女の顔
・作家としての顔
・喪失を抱えた人間の顔
その全部が、一本の皺や視線の揺らぎに刻まれてる。
そしてね、クレア・デインズって“痛みを演じさせたら世界一”なんじゃないかと思うんですよ。
アギーが息子を亡くした悲しみを引きずって生きてるシーンなんて、
派手に泣くわけでもないのに、目の奥の何かがずっと沈んでて、
「うわ…こんな表情、ロミジュリ時代には絶対できんやつや…」
ってなりました。
年齢を重ねたからこそ演じられる“静かな絶望”。
その説得力がトンデモない。
で、そこに現れるのが隣人のナイル。
いやこの男、最初から最後まで怪しいのよ。
“清潔感ある実業家”なんだけど、笑った瞬間のあの目の奥の無表情、怖すぎません?
なんというか……
**「この男、100% “何か”あるやろ感」**がすごい。
ただの変態男とかサイコパスというより、
“理性の仮面をかぶった獣”って感じなんですよね。
でも面白いのは、アギーもまた“獣”を抱えてるってこと。
悲しみ、喪失感、そして息子の死の空白を埋めるために、ナイルの謎にのめり込んでいく。
この“依存”に片足突っ込んでるような危うさが、見てて怖くもあり、でも理解できてしまうところでもあり…。
ナイルは最初から怪しいんですけど、
本性が分かるにつれて「紳士の皮をかぶった怪物」感が増していく。
しかも家族ぐるみでマディを追い詰めていたという描写がリアルすぎて、普通のサイコサスペンスより怖い。
マディの人生も本当に救いがなくて、
夫の犯罪を知ってしまい、誰にも助けを求められず、
最後は“消された存在”になっていたというのがあまりにも重い。
アギーと同じく、こっちまで胸が痛くなりました。
アギー自身も、息子を失った喪失や罪悪感から
ナイルを“物語の材料”にしてしまうところがあり、
そこに彼女の“内なる獣”が出てしまっている感じが面白いポイント。
観察しているつもりが、いつの間にか自分も獣のリングに入ってるという構図が良かったです。
そして最後に物語を大きく動かしたのは、現妻ニーナ。
ナイルの告白を自分の手で録音して暴いた瞬間は、めちゃくちゃスッとしました。
マディの沈黙を代わりに破ったのは、彼女だったんだなと。
全体として派手さはないけど、
見終わったあとに「獣って、結局誰の中にもいるよな…」と考えさせられるタイプのサスペンスでした。
総じて、
“派手さはないのに、心がざわざわして眠れなくなるサスペンス”
って感じ。
ナイルのあのじわっと来る気持ち悪さと、アギーの弱さと強さが絡み合う心理戦がめちゃくちゃクセになります。
気づいたら自分の内側にも“獣”がいる気がしてきて……なんかちょっと怖いけど、めちゃくちゃ面白かったです。
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