連続ドラマW『事件』レビュー
イントロダクション
ある資材置き場で、若い女性が胸にナイフを刺された状態で死亡している遺体が発見される――。被害者は地元でスナックを経営していた20代女性。ほどなくして、その幼なじみの19歳の青年が「殺人および死体遺棄」の疑いで逮捕される。彼の弁護を引き受けたのは、かつて裁判官を務め、今は弁護士として“真実”から目をそむけていた男、菊地大三郎。自白もあったはずのこの単純に見えた事件に、法廷という舞台で意外な“真実”が次々と顔を出していく。果たして、青年はただの「人殺し」なのか――。このドラマは、“裁く側”と“弁護する側”の間で揺れる法廷心理戦を軸に、人々の過去と現在、再生への道のりを描くサスペンスだ。
作品情報
- 原作: 事件(大岡昇平)/第31回日本推理作家協会賞受賞作
- 放送: WOWOW「連続ドラマW」枠、全4話
- 監督: 水田成英
- 脚本: 三田俊之、保木本真也
- Blu-ray/DVD:2024年3月6日発売(DVD‐BOX)
- 内容ポイント:昭和から令和へ舞台を移し、裁判員制度下の法廷ドラマとして再構築。

キャスト紹介一覧
| 役名 | 俳優 | 役柄・キャラクター概要 |
|---|---|---|
| 菊地 大三郎 | 椎名桔平 | 元裁判官の弁護士。過去の判決がトラウマとなり、刑事事件から距離を置いていたが、本件をきっかけに再び“真実”と向き合うことになる。 |
| 上田 宏 | 望月歩 | 事件の容疑者で19歳の大学生。被害者とは幼なじみ。自白しているが、事件当夜の記憶が部分的に欠けている。 |
| 坂井 葉津子 | 北香那 | 被害者。若くしてスナックを経営。人間関係や恋愛面に複雑な背景があり、死後もその存在が事件を左右する。 |
| 坂井 佳江 | 秋田汐梨 | 葉津子の妹で、宏の恋人。宏の子どもを妊娠していると話し、事件に深く関わる鍵を握っている人物。 |
| 岡部 椿 | 仁村紗和 | 検察官。冷静で理論的。裁判で宏の有罪と“殺意”の立証を目指し、菊地と鋭く対立する。 |
| 宮内 遥斗 | 高橋侃 | 葉津子の元恋人。事件前後の行動や証言が不自然で、重要人物として疑惑の目が向けられる。 |
| 大村 慎司 | 中村シユン | 葉津子と“金銭的・契約的な関係”があった男。事件当夜の動きが謎に包まれており、裁判で証言台に立つ人物のひとり。 |
| 和泉 美咲 | 貴島明日香 | 菊地の法律事務所のスタッフ。菊地の葛藤を理解し、支える存在。 |
| 坂井 美枝子 | ふせえり | 葉津子と佳江の母。娘を突然失い、悲しみと怒りの中で証言する姿が裁判に大きな影響を与える。 |
あらすじ
舞台は地方都市・松野市。
ある朝、郊外の資材置き場で、若い女性の刺殺体が発見されます。亡くなっていたのは、地元で小さなスナックを切り盛りしていた坂井葉津子。胸を一突きにされた、衝動的とも計画的とも取れる一撃――警察は周囲を洗い、ほどなくして容疑者を特定します。逮捕されたのは、葉津子の妹・佳江の恋人であり、葉津子とも幼なじみの19歳の青年・上田宏でした。
宏は取り調べの中で「自分がやった」とあっさり自白。
「動機は口論の末の突発的な犯行」「死体を遺棄したのも自分」。
自白もあり、客観的な状況証拠も揃っている――誰が見ても“有罪はほぼ確実”な事件に思えました。
しかし、この“簡単そうに見える事件”が、菊地大三郎というひとりの弁護士の人生を大きく揺さぶっていきます。
菊地はかつてエリート裁判官として名を馳せた男。
ところが5年前、彼が裁判長として下した判決がきっかけで、ある痛ましい事件が起こり、その出来事がトラウマとなって刑事事件から距離を置き、「真実にあえて背を向ける」ような仕事のスタンスを取るようになっていました。
そんな菊地のもとへ、同じ法律事務所の高橋弁護士から、この殺人事件の弁護依頼が持ち込まれます。最初は頑なに拒む菊地ですが、「お前にしか頼めない」という高橋の言葉と、どこか空虚な目をした宏の姿に、1度だけ接見に行くことを決めます。
拘置所で対面した宏は、「どうなってもいい」と投げやりで、まるで自分の人生を放棄しているような態度。しかし、菊地が粘り強く話を聞いていく中で、宏の“抜け落ちた記憶”が浮かび上がってきます。
事件当夜の一部だけが、ぽっかりと欠けている――。本人も「殺したかもしれない」と思っているけれど、決定的な瞬間を思い出せない。その“穴”が、菊地の中にある職業的な違和感を刺激します。
「本当にこの青年は“人殺し”なのか?」
「自白は、真実を語っていると言えるのか?」
宏の過去を調べ、周囲の人間関係を洗っていくうちに、菊地は次第に“再び真実と向き合わざるを得ない地点”に追い込まれていきます。
やがて迎えた裁判員裁判。
検察側は、冷静で切れ者のエース検察官・岡部を立て、宏の“殺意”を理詰めで立証しようとします。一方で菊地は、当初「量刑をどう軽くするか」が焦点になると思われていたこの裁判で、まさかの「無罪」を主張。法廷は一気に緊張感に包まれます。
証人として呼ばれるのは、葉津子の元恋人・宮内、葉津子と“ある契約”を交わしていた男・大村、そして葉津子の母、妹の佳江…。証言が積み重なっていくたびに、“被害者と加害者”として切り分けられていたはずの二人の関係に、新しい輪郭が浮かび上がります。
- 葉津子と宏は本当に憎しみ合っていたのか?
- 二人の間にあった「恋情」や「依存」はどんな形だったのか?
- 事件当夜、資材置き場で何が起きたのか?
さらに、菊地がかつて裁判長として関わった“別の事件”がSNSで掘り起こされ、裁判員たちの心象や世論が揺れていく展開も。菊地自身の過去の“罪”が、現在進行形の裁判にも影を落とし、「裁く側/裁かれる側」の境界線がどんどん曖昧になっていきます。
終盤、葉津子の母の告白や、元恋人・宮内の「葉津子を殺したのは俺だ」という衝撃的な言葉が投げ込まれ、事件は“単純な刺殺事件”から、“誰がどこまで罪を負っているのか分からない複雑な事件”へと姿を変えていきます。菊地は異例の現場検証のやり直しを求め、記憶の空白を抱えた宏も、ついに自分自身の過去と正面から向き合うことに――。
最後に法廷で下される判決は、「有罪か無罪か」だけでは測れない、“真実と向き合うことの重さ”を視聴者にも突きつけます。
そして、あの資材置き場で本当に何があったのか――その答えが明らかになったとき、事件は単なるミステリーではなく、「人はどこまで人を裁けるのか」という、大きな問いを残して幕を閉じます。

私の感想
いやぁ…観終わったあと、ぐっと胸に残るタイプのドラマでした。派手さとかエンタメ性というより、静かに刺してくるサスペンス。気づいたら考えさせられてる系。WOWOWらしい質感で、良い意味で地味、悪い意味でも地味。でも、その“地味さ”が逆にリアルで、人間の怖さとか弱さとか曖昧さが最後まで消えない。
まず、椎名桔平さん。
渋すぎる。声低いし、存在にキレあるし、でもその奥に“迷ってる人間”がちゃんと見える。
弁護士として「戦ってる」というより、「逃げ続けてきたけど、逃げ切れなくなった」みたいな空気がずっとまとわりついてて、観ててめちゃくちゃ人間臭かった。
それから、望月歩くん演じる宏。
最初は「え…この子、本当にやったん?やってないん?」って視聴者を完全に迷子にさせるタイプ。
語り方も目線も癖あって、なんか掴めない。
でも裁判が進むにつれて、
「この子、自分が何を背負ってるのかすら理解できてないんじゃないか…?」
って気付いた瞬間、胸がズンと重くなった。
そして被害者・葉津子。
死んでるのに、めちゃくちゃ存在感ある。
話が進めば進むほど、「ただの被害者」という枠からはみ出していく感じ。
人間って、生きてる時より「語られたあと」のほうが複雑になるんやなって思った。
人間関係って綺麗に区分できないし、愛情も依存も優しさも支配欲もだいたい混ざってる。
あと個人的に良かったのは、裁判員制度がリアルに描かれてたところ。
日本って、殺人事件がドラマの題材になっても、裁判って意外とオマケ扱いになりがちやけど、この作品はそこが主戦場。
証言ひとつで空気が変わる感じとか、
「事実」より「印象」が動いていく恐怖とか、
めっちゃ現実味あった。
途中何度か思ったのは、
「人間を“善か悪か”のジャッジで片付けようとすると、全部見えなくなるな」
ってこと。
特に終盤、誰が嘘をついてるのかじゃなくて、
「なぜ嘘をつく必要があったのか」
にフォーカスが移った瞬間、作品の方向性がガラッと変わるんよ。
あれは鳥肌案件。
最後の判決シーンも良かった。
すっきりしないし、100%答え合わせができる終わり方じゃない。
でも逆にそれが、この作品の“正解”なんやと思う。
現実って、事件の全貌が明確にわかる瞬間なんてほぼ無い。
真実はあるけど、完全には掴めない。
でも、それでも向き合うことをやめたら、
「何も変わらないし、誰も救われない」。
観終わったあとそう思った。
最後にひと言
「サスペンス好き」より、「人間ドラマが好きな人」に刺さるドラマ。
静かやけど深い。
派手じゃないけど忘れない。
観終わったあと、コーヒー飲みながら余韻を噛みしめたくなる作品でした。
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