映画『クロガラス1・2・3・0』レビュー
イントロダクション
眠らない街・新宿歌舞伎町を舞台に、“金さえ払えばどんな危ない仕事も引き受ける”解決屋チーム「クロガラス」が、裏社会のトラブルを冷徹に裁くアンダーグラウンド系アクション。監督・脚本は小南敏也。2019年に『1』『2』が連続公開、2021年に続編『3』と前日譚『0』が劇場公開され、黒斗という寡黙なリーダーの過去と現在が立体化されたシリーズ構成になっています。
作品情報(シリーズ共通)
- 監督・脚本:小南敏也
- 主なキャスト:崎山つばさ(黒斗/シリーズ主人公)、植田圭輔(悠哉)、最上もが(日菜) ほか
- 配給:エイベックス・ピクチャーズ
- 舞台:新宿・歌舞伎町
キャスト紹介
- 崎山つばさ(黒斗 役)
主人公で解決屋「クロガラス」のリーダー。冷静沈着だが過去に警察官時代の闇を抱える。シリーズの軸を担う存在。 - 植田圭輔(悠哉 役)
黒斗の右腕的存在。軽妙さと情報収集能力に長け、交渉・裏仕事もこなすチームの潤滑油。 - 最上もが(日菜 役)
唯一の女性メンバー。ハッキングや潜入調査に強みを持ち、冷静な視点でサポートする頭脳派。 - 渡辺裕之(兵頭 役)/『クロガラス0』
黒斗が警察官時代に出会った先輩刑事。黒斗の「正義観」に大きな影響を与える人物。 - 前田公輝、荒井敦史 ほか(シリーズ各作ゲスト)
『1』『2』『3』ではホスト、援交グループのリーダー、ライバル解決屋などとして登場。毎作ごとに異なるゲストキャストが物語を盛り上げる。
あらすじ
『クロガラス1』(2019)
公開:2019年3月9日/尺:約80分
概要:新人ホスト和輝が、600万円のツケを残して姿を消した客・舞衣を追うため、成功報酬300万円で解決屋「クロガラス」に捜索を依頼。欲望が渦巻く歌舞伎町で、金と正義の境目が揺らぐ。
あらすじ(要点)
ツケの回収か、依頼費の調達か――崖っぷちの和輝は黒斗・悠哉・日菜に望みを託す。調査が進むほど、舞衣の素性や背後事情が明らかになり、事件は単なる“飛ばれ”の域を超えていく。解決屋は「金=正義」のルールで容赦なく動くが、黒斗の胸中には別の“秤”も見え隠れする。

『クロガラス2』(2019)
公開:2019年3月30日
概要:援助交際グループを率いる千鶴が台頭。黒斗たちは欲望の“供給網”に切り込み、さらに深い闇と対峙する。
あらすじ(要点)
未成年が絡むスキャンダル、動画・SNSで増幅する脅し、現金化――現代型の搾取構造に、クロガラスは徹底した調査と実行で迫る。だが、露わになるのは加害と被害が反転し続ける地獄絵図。黒斗の非情な裁きは、どこまで“救い”たり得るのか。

『クロガラス3』(2021)
公開:2021年9月3日
概要:「解決屋 VS 解決屋」。同業の台頭により、金で動く“正義”同士が激突。組織間の読み合いと実働戦がシリーズ随一にヒリつく。
あらすじ(要点)
依頼が交錯し、情報が嘘を呼ぶ。黒斗は合理主義を貫くが、過去の因縁がにわかに熱を帯びる。ナイフより冷たい交渉、秒で決まる踏み込み、そして“仕置”。黒斗が守るのは依頼人か、チームか、それとも自分のルールか――。

『クロガラス0』(2021・前日譚)
公開:2021年9月17日/尺:約70分
概要:黒斗が“解決屋”になる前――新人警察官時代の腐敗と陰謀。黒斗と兵頭の関係、組織の買収、連続強盗の裏で蠢く黒幕。シリーズの“正義観”の源流が描かれる。
あらすじ(要点)
無秩序な街、買収された警察。黒斗は職務を全うしようとして孤立するが、先輩・兵頭の庇護を得て秩序回復に動く。やがて殺人にまで発展する事件の奥に、制度疲労と人間の欲が絡みつく。ここでの挫折と選択が「クロガラス」の誕生理由になる。
シリーズ総評
- “金=正義”の割り切りが痛快:依頼金で行動が決まる原理は、勧善懲悪を反転させた現代的な倫理観。正しさより“取引”が先に立つ世界で、誰もが少しずつ加害者にも被害者にもなり得る感じがリアル。『2』の援助交際ネットワークはその構造を最も露骨に見せ、観客のモラルを揺さぶります。
- 黒斗の“温度差”が魅力:外側は氷点下のプロ、内側には消せない過去――『0』で過去を見せた後に『3』を観ると、黒斗の無表情に“理由”が付与され、台詞の少ない芝居でも感情線が濃く見える。順番は公開順(1→2→3→0)でも、時系列順(0→1→2→3)でも面白いですが、初見は公開順を推し。シリーズが意図的に後出しする“答え合わせ”の快感が強い。
- 実務の説得力:ハッキング、張り込み、脅しと交渉の“温度管理”まで、実働の描写が小気味よい。派手な超人バトルではなく、“段取りの勝利”で決める実務アクションがクセになる。公式の人物紹介も“役割”が明確で、三人体制の戦い方が理解しやすいです。
- 弱点もひとこと:低予算ゆえ画(え)のスケールは抑えめ。展開の都合が先行する箇所もありますが、テンポと割り切りで押し切るタイプ。歌舞伎町という“装置”が効いているので、都市の倫理に興味がある人には刺さるはず。
まず観るなら?
- 時間がない人:『1』だけでも世界観は掴める。
- シリーズの核を知りたい人:『0→3』を続けて。“黒斗が何者か”→“その現在地”の流れ。
- 王道ののめり込み順:公開順の1→2→3→0。ミステリー的に情報が開く快感を最大化。
私の感想
『クロガラス』シリーズを観て一番感じたのは、**「正義ってなんやろ?」**ってところ。普通の映画なら「悪を倒す=正義」って単純な図式だけど、この作品は違います。黒斗たちが動く理由はめちゃくちゃシンプルで「金を払うかどうか」。お金さえ積めば、相手がどんなヤバい奴でも引き受ける。だから見ていて「え?そこまでやっちゃうの?」っていう驚きが何度もありました。
でも、その冷たい割り切りの奥に、黒斗の過去や葛藤がチラッと見えるのがズルいんですよね。特に『0』を観た後だと、「なるほど、この人はこういう背景があったから今のスタイルになったんや」って、ただの冷酷キャラじゃなくて、ちゃんと人間としての厚みを感じさせてくれる。無表情なのに妙に心を揺さぶられるんです。
あと、個人的に好きなのは、アクションが“超人的な無双”じゃなくて、リアルな段取り勝負なところ。殴り合いで勝つんじゃなくて、「張り込みで情報を握る」「一瞬の交渉で相手を飲ませる」「デジタルで証拠を掴む」とか、現実にありそうな裏仕事の描き方がめちゃくちゃ説得力ある。だから派手じゃないのに、観てて妙にドキドキするんですよね。
それと、歌舞伎町という舞台も強烈。きらびやかなネオンの裏で、ホストの借金とか援交とか、現代的な闇がドロッと描かれていて、「こんなん本当にありそう…」って思わせる説得力がすごい。『2』での援交グループの描写なんて、胸糞悪いのにリアルで目をそらせない。こういうエグさをガッツリ描くのも、このシリーズの魅力やと思います。
もちろん、低予算感はところどころ出てて「もっと金かけて撮ってほしかった!」って思う場面もあるんですけど、それすら逆に生々しくて「歌舞伎町のアングラ感」と相性良かったりもするんですよね。
総じて、『クロガラス』は勧善懲悪のスッキリ感よりも、人間の欲と矛盾をまるごと描き切るアクションドラマって感じ。順番は公開順で観た方が絶対に面白いし、特に『0』を最後に観ると「黒斗ってこういう人間やったんや」とガツンと来ます。
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