小説『暗殺』レビュー
イントロダクション
柴田哲孝著書の小説『暗殺』は、2024年6月に発売された政治サスペンス小説で、実際の事件をモチーフにしていることが特徴です。物語は、日本の元総理大臣が奈良県で演説中に凶弾に倒れるというショッキングな事件から始まります。この事件には、外国勢力や右翼団体、さらには国内の政界の陰謀が絡んでいる可能性が示唆され、読者をリアリティとフィクションの境界線で揺さぶります。
登場人物
- 田布施:元総理大臣、実在の人物をモデルにしており、彼の死が物語の発端となります。名前は伏せられていますが、多くの読者が彼を実在の元総理と結びつけています。
- 高野:日本民族派右翼・闇のフィクサーであり、元首相暗殺の黒幕として描かれる人物。彼の行動が物語の核心を成します。
- 山沼:41歳の狙撃犯、事件当日にその場で逮捕された男。彼の動機や背景は物語全体を通じて徐々に明らかにされます。
- 豊田:反田布施派の議員。高野と共謀し、元首相が襲撃されるように仕向けます。彼は元首相の遊説先を変更するなど、計画の成就に重要な役割を果たします。
- 一ノ瀬:週刊誌の契約記者であり、物語の重要な情報源の一つ。彼は事件に関する調査を進める中で、裏に隠された陰謀を暴こうとします
あらすじ※ネタバレあり
小説『暗殺』は、現代日本の政治的陰謀と過去の事件が交錯する複雑なサスペンスです。物語は、日本の元総理大臣が奈良県での演説中に銃撃され、命を落とすというショッキングな事件から始まります。事件の初動では、警察が即座に容疑者を逮捕し、単独犯による犯行として発表します。しかし、物語が進むにつれて、逮捕された41歳の狙撃犯が持つ動機が浮かび上がり、その裏に隠された真実が明らかになっていきます。
元総理を狙撃した銃弾が、複数の角度から発射されたことが推測され、単独犯説に疑念が生じます。また、物語はさらに深まり、第二の狙撃者の存在や、外国勢力が事件に関与していた可能性が示唆されます。
物語が進行する中で、35年前に起きた「朝日新聞襲撃事件」との関係が浮かび上がります。この事件は、赤報隊という謎の組織によって引き起こされたもので、現在も未解決のままです。小説では、この赤報隊と今回の元総理暗殺事件が密接に関連していることが示唆されます。赤報隊は、その時代から今まで政治の裏で暗躍しており、その影響力が元総理暗殺事件にも及んでいる可能性が描かれます。
その背後にいるのが、高野という人物です。高野は日本民族派右翼・闇のフィクサーであり、長年にわたって政治の裏で暗躍してきた黒幕です。彼は、この暗殺計画の中心人物であり、事件の全貌を巧みに操作しながら、自らの政治的目的を達成しようとしています。高野の陰謀と冷徹な計算は、物語全体を通じて読者を緊張感の中に引き込み、彼の行動が事件の真相をさらに複雑にしていきます。
後半からは、一ノ瀬という週刊誌の契約記者も登場し、彼が真相に迫るジャーナリストとして物語の進行に重要な役割を果たします。
元総理暗殺事件の背後には、政治的な対立だけでなく、過去の未解決事件が絡んでおり、その謎が次第に解き明かされていきます。読者は、現代の事件と過去の影がどのように結びついているのかを探りながら、緊張感あふれる展開に引き込まれていくことでしょう。
私の感想
小説『暗殺』は、読者をぐいぐいと引き込む圧倒的な魅力を持った作品です。物語が進むにつれて、次々と明かされる陰謀の糸口や事件の背後に潜む真実が、まるでパズルのピースがぴったりとはまっていくような感覚を与えます。こうした巧みなプロットにより、一度読み始めるとページをめくる手が止まらなくなります 。
特に印象的だったのは、物語の終盤における予想外の展開です。事件が解決に向かっているかに見えた瞬間、再び深い闇が読者の前に立ちはだかり、さらなる謎が投げかけられます。この展開は、単なるエンターテインメントの枠を超え、現実社会や政治の暗部に対する鋭い批評を提供しています。こうした重厚なテーマが含まれているため、物語はただのフィクションとして楽しむだけでなく、読み終えた後も深い思索を促される作品です 。
また、作品中で取り上げられる「令和」という元号に対する独自の視点も興味深い要素の一つです。日本の新時代の象徴として選ばれた「令和」ですが、その背景に潜む陰謀や政治的な動きが示唆され、現実とフィクションが交錯する瞬間が描かれています。この視点により、物語は単なる架空の出来事にとどまらず、現代社会に対する批評的な視点を提供しています 。
全体として、柴田哲孝氏の『暗殺』は、現実とフィクションの狭間で読者を揺さぶり続ける、非常に読み応えのある作品です。読み出したら止まらないその魅力は、緻密に構成されたプロットと現実社会への深い洞察によって支えられています。この作品を読み終えた後も、物語の余韻が長く残り、さらなる考察を誘うことでしょう。
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