映画『リアリティ(Reality)』レビュー
🎬 イントロダクション
「真実を語るのか、それとも沈黙を守るのか──
104分の尋問は、あなたの目を逸らせない。
これは実話にもとづく〈声なき声〉の闘いである。」
そんな言葉を掲げて、この映画は始まります。
「Reality(リアリティ)」は、実際の FBI 尋問の書き起こし(トランスクリプト)をもとに構築された“言葉そのまま”のドラマ。観客は、現実の記録とフィクションの境界線を揺さぶられながら、主人公の選択と葛藤を見つめることになります。
🎞 作品情報
項目 | 内容 |
---|---|
タイトル | リアリティ(Reality) |
製作年 | 2023年 |
ジャンル | サスペンス・ドラマ(ジツワベース) |
監督 | ティナ・サッター(Tina Satter) |
脚本 | ティナ・サッター、ジェームズ・ポール・ダラス(James Paul Dallas) |
製作 | ブラッド・ベッカー=パートン、リヴァ・マーケル、グレッグ・ノービル、ノア・ストール |
撮影 | ポール・イー(Paul Yee) |
音楽 | ネイサン・ミケイ(Nathan Micay) |
編集 | ロン・デューリン、ジェニファー・ヴェッキアレロ |
上映時間 | 約85分 |
言語 | 英語 |
公開日 | 2023年2月18日(ベルリン国際映画祭プレミア) 2023年5月29日(HBOフィルムズにて配信) |
原作/基になった作品 | 舞台『イズ・ディス・ア・ルーム(Is This A Room)』 FBI尋問の実際のトランスクリプトを使用 |
制作国 | アメリカ合衆国 |
🎭 キャスト紹介
キャラクター | キャスト(俳優) | 役どころ |
---|---|---|
リアリティ・ウィナー | シドニー・スウィーニー(Sydney Sweeney) | 主人公。NSA(国家安全保障局)の契約職員。機密情報漏洩の疑いをかけられ、FBIの尋問を受ける女性。 |
エージェント・ガリック | ジョシュ・ハミルトン(Josh Hamilton) | FBI捜査官。冷静かつ丁寧な口調でリアリティを追い詰めていく。 |
エージェント・テイラー | マーシャント・デイヴィス(Marchánt Davis) | FBI捜査官。ガリックと共に尋問を担当。リアリティの心理を探る。 |
ジョー(不明な男性) | ベニー・エレッジ(Benny Elledge) | FBIの現場捜査員。家宅捜索の補助役として登場。 |
FBIエージェント | ジョン・ウェイ(John Way) | 尋問の補助を行うエージェント。その他少数の関係者として登場。 |
あらすじ(ネタバレ注意)
以下は、映画の展開をある程度詳しく語る内容を含みます。未鑑賞の方は読み飛ばしてください。
2017年6月3日、アメリカ・ジョージア州。
ひっそりとした住宅街の一角で、ひとりの若い女性が車を止めた。
彼女の名は リアリティ・ウィナー(Reality Winner)。
NSA(国家安全保障局)の契約職員として働く25歳の女性。
彼女の一日は、いつもと同じように、スーパーで買い物を済ませて帰宅する──
はずだった。
玄関先で待っていたのは、FBIの捜査官たち。
にこやかに「少しお話を」と声をかけてきたその瞬間、空気が変わった。
家の前の芝生に立つ黒いSUV、無線のノイズ、無言で動く男たち──
リアリティの家が“現場”になっていく。
彼女は犬と猫を気にしながらも、言われるままに家の中へ。
捜査官たちは淡々と質問を始める。
「お仕事は?」「どこで働いてるの?」「パソコンはどこ?」
最初は世間話のように柔らかく、しかし一言一言が罠のように仕掛けられている。
リアリティは笑顔を浮かべながらも、何かを隠しているように見える。
やがて捜査官ガリックが、テーブルの上に一枚の書類を置く。
そこには、NSA内部から外部メディアへ流出した“国家機密文書”のコピー。
FBIが追っていたのは、まさにその犯人──
リアリティ・ウィナー本人 だった。
尋問は静かに、しかし確実に彼女を追い詰めていく。
リアリティは「私は何もしていません」と繰り返すが、
声のトーンが少しずつ崩れ、息遣いが荒くなる。
カメラは彼女の顔のわずかな震え、目線の動き、手の震えをとらえる。
沈黙と冷気の中、時間がゆっくりと進んでいく。
そしてついに、リアリティは小さく息を吐きながら呟く。
「……プリントしたのは私です。」
その瞬間、場の空気が一変する。
FBI捜査官の顔から表情が消え、メモを取る音だけが響く。
外では、家宅捜索の音が聞こえ、警官たちが彼女の荷物を運び出している。
リアリティは壁の向こうの世界を見つめながら、
どこか吹っ切れたような、しかし寂しげな表情を見せる。
「私は、ただ…国民に真実を知ってほしかった。」
画面は静かに暗転し、テロップが流れる。
――この事件は実際に起こった。
リアリティ・ウィナーは、ロシアによるアメリカ大統領選挙への干渉を示す機密文書を
メディアへ送信した罪で逮捕。
そして、機密漏洩事件としては当時最長の懲役刑を受けた女性となった。
物語は派手な裁判劇や回想を一切使わず、
たった85分間、彼女とFBIの「言葉の戦い」だけで進行する。
しかしその静けさの中には、国家と個人、
そして“真実”と“沈黙”の間で揺れる人間の本質が、はっきりと映し出されていた。
この“静かな尋問劇”は、爆発も銃撃もないのに心を抉るような緊張感。
観終わったあと、ふと部屋の静けさが怖くなるほどリアルです。
まさに、“沈黙が語るスリラー”。
🎬 私の感想
正直、この映画…地味なのにめちゃくちゃ緊張するんです。
派手な爆発も、BGMで煽るような演出もないのに、静かに息が詰まるような“圧”がある。
舞台はほぼずっと一軒家のリビングと小部屋。登場人物もほぼ3人。でも、この閉じられた空気の中で繰り広げられる会話だけで、観ている自分の鼓動が早くなるのを感じました。
シドニー・スウィーニーの演技が本当にすごい。
「イートゥリア」「ユーフォリア」で見せた彼女のセクシーで華やかなイメージとはまったく別人。
この作品では、リアリティ・ウィナーという“普通の女性”を、限界までリアルに演じています。
FBI捜査官に囲まれて、笑顔を保とうとしながらも、じわじわ崩れていくその表情。
あの“目の揺れ”だけで心の中の不安と恐怖を全部伝えてくる感じ…。
あれはもう演技というより、“本人そのもの”に見えました。
そしてこの映画、脚本がほんと変わってます。
実際のFBIの尋問録音を、一言一句そのまま脚本にしてるんです。
だからこそ、言葉の「間(ま)」や沈黙のリアルさが刺さる。
途中で機密部分が“ピー”とか“黒塗り”みたいに伏せられる演出も入るんですが、
その「消された部分」こそが、逆に現実の怖さを際立たせてる気がしました。
観終わったあと、ふと考えたのは「正義ってなんだろう?」ということ。
彼女は国家の機密を漏らした“罪人”でもあり、同時に“真実を明るみに出した人”でもある。
善と悪の境目があまりにも曖昧で、観る人の価値観によって結末の印象がまったく変わる映画だと思います。
「もし自分だったら、沈黙を守るか?それとも真実を話すか?」
そんな問いを静かに突きつけられました。
この映画の面白いところは、スリルを感じさせながらも、実は“人間ドラマ”としての重みがあるところ。
ひとつの尋問を通じて、社会・権力・個人・良心といったテーマが全部詰まってる。
しかも、全編85分でテンポも抜群。
ドキュメンタリーっぽいのに、ちゃんと映画としての緊張感とドラマがある。
観終わったあとは、静かにゾッとしながらも、「これが現実なのか…」としばらく考え込んでしまいました。
🎯 まとめると:
『リアリティ』は、“沈黙のスリラー”であり、“真実の映画”。
会話劇なのに、ここまで手に汗握るのは本当に稀。
シドニー・スウィーニーの演技を観るだけでも価値アリです。
静かに衝撃を受けたい人、現代社会の「真実」と「嘘」に興味がある人には絶対おすすめ。
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