WOWOW連続ドラマW『誰かがこの町で』感想
観るきっかけは、正直なところ「全4話で終わるなら気軽に観られるかな」くらいの軽い気持ちだった。
WOWOWの連続ドラマWは当たり外れがあるけど、江口洋介と蒔田彩珠の組み合わせには少し興味があった。で、日曜の夜に第1話を再生して、気づいたらそのまま最終話まで一気に観ていた。
これ、めちゃくちゃ怖い。ホラーじゃないのに怖い。観終わったあと、自分が住んでいる町のことをふと考えてしまった。あの回覧板、あの挨拶、あの暗黙のルール。もしかして、うちの町にも似たような空気があるんじゃないかって。
この記事では前半でネタバレなしの感想を、後半でネタバレありの考察を書いています。まだ未視聴の方も安心して前半だけ読んでもらえたらうれしいです。
『誰かがこの町で』作品情報・あらすじ
原作: 佐野広実『誰かがこの町で』(講談社) 脚本: 前川洋一 監督: 佐藤祐市 放送: 2024年12月8日〜12月29日(WOWOW・全4話)
主なキャスト: 真崎雄一 ── 江口洋介 望月麻希 ── 蒔田彩珠 菅井昭二郎 ── 本田博太郎 真崎の上司・喜久子 ── 大塚寧々 木本千春 ── 鶴田真由 その他 ── 宮川一朗太、尾美としのり、玄理、戸次重幸、でんでん
あらすじ:
法律事務所で調査員として働く真崎雄一のもとに、養護施設で育った少女・望月麻希がやってくる。「家族を探してほしい」という依頼を受けた真崎は、麻希が幼い頃に暮らしていた高級住宅街「福羽地区」へ足を踏み入れる。
「安全で安心な町」をモットーに掲げるこの住宅地。だが調べていくうちに、20年以上前に起きた幼児誘拐殺人事件の影がちらつき始める。住民たちは何かを隠している。真崎と麻希は、町ぐるみの沈黙の壁に挑んでいく──。
これ以上は書かない。第1話の冒頭だけで「この町、おかしい」と肌で感じるはずだから。
【ネタバレなし】『誰かがこの町で』ここが刺さった
「正しさ」が暴力に変わる瞬間の描き方
このドラマが描いているのは、わかりやすい悪人の話じゃない。
「町を守りたい」「子どもたちの安全を守りたい」。そう思うこと自体は、まったく間違っていない。むしろ正しい。でもその正しさが集団の中で肥大化して、「異物」を排除する暴力に変わっていく過程が、丁寧に、しかも淡々と描かれる。
観ていて一番ゾッとしたのは、住民たちが「悪いことをしている自覚がない」ところだった。むしろ「良いことをしている」と信じている。その確信に満ちた目が、本当に怖い。
自分も長年同じ土地で仕事をしてきたから、地域のコミュニティの空気感はよく知っているつもりだった。でもこのドラマを観て、「あれ、自分もどこかで”空気を読む側”に回ってなかったか?」と考えてしまった。悪意がないぶん、余計にタチが悪い。そこを突いてくるドラマだった。
江口洋介の”父親の顔”が新鮮すぎた
江口洋介さんといえば、どうしても「兄貴」「タフな男」のイメージが強い。でもこのドラマでは違う。
真崎という男は、自分自身にも傷を抱えている。だから麻希に対して、最初はどこか距離を置いている。でもストーリーが進むにつれて、真崎の表情にだんだん「守りたい」という感情が滲んでくる。それは刑事の正義感とかじゃなくて、もっと個人的な、父親のような感情に近いもの。
特に第3話、麻希が過去と向き合うシーンでの真崎の横顔。何も言わないのに、全部伝わってくる。こういう芝居ができるのは、江口洋介さん自身が年齢を重ねたからこそだと思う。
蒔田彩珠の静かな怒りに釘づけになる
蒔田彩珠さんは『おかえりモネ』の頃から気になっていた女優さんだけど、このドラマでの彼女は別格だった。
麻希というキャラクターは、声を荒らげない。泣き叫ばない。でも目の奥に、ずっと消えない火がある。その「静かな怒り」の表現がとんでもなかった。セリフが少ない場面のほうが、彼女の凄みが伝わってくる不思議な体験。
江口洋介さんとの年の差バディも絶妙で、2人の間に流れる空気感が回を重ねるごとに変化していくのが見どころの一つ。
全4話という潔さ
最近のドラマは10話、12話と長いのが主流で、正直「中盤ダレるな…」と感じることも多い。
でも『誰かがこの町で』は全4話。一切の無駄がない。余計なサブプロットも、不要な恋愛要素もない。町の秘密を暴くという一本の軸だけで、4時間弱を一気に走りきる。
この潔さはWOWOWの連続ドラマWならではだと思う。地上波じゃこのフォーマットは難しい。だからこそ、密度が濃い。
『誰かがこの町で』の評価
★★★★☆(4.0 / 5.0)
「同調圧力」というテーマを、説教くさくならずにエンタメとして成立させた手腕が見事。全4話の構成も良い。ただ、原作を読んだ身としてはもう少し掘り下げてほしかった部分もあるので、★4つ。それでも十分おすすめできる一本。
個人的には、もう半歩踏み込んで住民一人ひとりの「加担した理由」を描いてくれたら★5だった。でもそこをあえて描かないのが、このドラマの怖さなのかもしれない。
⚠ ここからネタバレあり ⚠
以下は最終話までの内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。
【ネタバレあり】踏み込んだ感想と考察
あの「集会シーン」の異様さ
ドラマ全体を通して一番印象に残っているのは、住民たちの集会のシーン。
あれ、完全にカルトの集まりだった。でも参加している住民たちは、自分たちのことを「善良な市民の集まり」だと本気で思っている。地区長の菅井昭二郎さん(本田博太郎)が語る「この町を守る」という言葉に、全員がうなずく。異を唱える者には圧力がかかる。
本田博太郎さんの演技がまた絶妙で、表向きは温厚な町の長老なんだけど、目の奥が笑っていない。あの「善人の仮面」の気持ち悪さは、さすがベテランの技だった。
菅井家の闇と町の共犯関係
20年前の幼児誘拐殺人事件。犯人が地区長の息子・輝夫だったという真相が明かされたとき、「やっぱりか」と思いつつも、そのあとの展開にやられた。
問題は犯人が誰かじゃない。町が、住民たちが、それを知りながら隠蔽していたこと。「この町の秩序を守るため」という大義名分のもとに、一人の子どもの命が覆い隠された。
被害者の母・木本千春(鶴田真由)が背負わされた苦しみを思うと、本当にやるせない。彼女は真実を知りながら、何年も何年もこの町に住み続けていた。その心中を想像するだけで胸が詰まる。鶴田真由さんの押し殺した演技が、観る側の心をえぐってくる。
ラストの真崎と麻希に救われた
正直、中盤から終盤にかけてはかなりキツい展開が続く。人間の醜さをこれでもかと見せつけられるから。
でもラスト、真崎と麻希が町から離れていくシーンで、ようやく息がつけた。2人の間に血のつながりはない。でもこの4話を通じて生まれた絆は本物で、そこに小さな希望がある。
真崎が最後に麻希にかけた言葉。あの一言で、このドラマが「ただの告発モノ」ではなく「人の再生の物語」だったんだと気づかされた。
結末の細部はここでは書かない。ぜひ自分の目で確かめてほしい。
個人的に一番グッときたのは、木本千春が長年溜め込んでいた感情をついに吐き出すシーン。鶴田真由さんが声を震わせながら、それでも崩れ落ちずに立っていたあの姿。母親の強さって、ああいうことなんだと思った。子どもを失ってなお、この町で生き続けた彼女の覚悟を思うと、言葉が出ない。
『誰かがこの町で』はこんな人におすすめ
このドラマは万人受けするタイプではない。でも、以下のどれかに当てはまるなら間違いなく刺さると思う。
WOWOWのドラマが好きな人。地上波とは明らかに違う攻め方をしてくるので、その密度感が心地よい人にはたまらない。社会派ミステリーが好きな人。派手なアクションや衝撃展開ではなく、じわじわと追い詰められる系が好きなら最高。「同調圧力」「空気を読む文化」に思うところがある人。日本社会の縮図として、このテーマに敏感な人ほど刺さるはず。江口洋介さんや蒔田彩珠さんのファン。2人の新しい一面が見られる貴重な作品。短いドラマを探している人。全4話なので、週末にサクッと一気観できる。
逆にスカッとする爽快感を求めている人には向かないかもしれない。観終わったあとに残るのは爽快感じゃなくて、じんわりとした「問い」のようなものだから。
まとめ|視聴方法と配信情報
WOWOWドラマ『誰かがこの町で』、観終わってから数日経っても頭の中に残っている。それくらい、テーマが深く刺さる作品だった。
全4話という短さの中に、人間の弱さと強さ、集団の恐ろしさと個人の尊さが詰まっている。年末年始の一気観にもおすすめだし、もう一度観返したくなるタイプのドラマでもある。
視聴方法: WOWOWオンデマンド(月額2,530円)のほか、U-NEXTでも配信中。U-NEXTなら31日間の無料トライアルがあるので、「このドラマだけ観たい」という人にはこっちのほうが手軽かもしれない。もちろんWOWOWは他にも良質なドラマが揃っているので、ハマりそうな人はWOWOW加入もおすすめ。


原作小説もおすすめです。ドラマとは少し違う結末になっているので、ドラマを観た人が読んでもまた新しい発見がある
ブログランキング
ポチッと応援していただけたら嬉しいです


コメント