映画『室井慎次 敗れざる者』徹底解説!イントロ・キャスト・あらすじ・感想まとめ

目次

映画『室井慎次 敗れざる者』レビュー

イントロダクション

『室井慎次 敗れざる者』は、あの伝説の刑事ドラマ『踊る大捜査線』から生まれたスピンオフ映画で、室井慎次を主人公に据えた2部作の前編です。前作『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』からなんと12年ぶり、室井主役作としては『容疑者 室井慎次』以来19年ぶりという、まさに“レジェンドの帰還”。

舞台は東京の湾岸署ではなく、東北・秋田の山奥。かつて“警察組織を変える”と青島俊作と約束した男が、今度は「事件の被害者家族・加害者家族」を守ろうとする立場に変わっているのが最大のポイントです。

刑事アクションというより、人間ドラマ・社会派ドラマとしての色合いが強く、「正義とは何か」「罪を犯した家族とどう向き合うのか」という重いテーマをガッツリ投げてくる一本でした。


作品情報

  • タイトル:室井慎次 敗れざる者(英題:NOT DEFEATED)
  • 公開日:2024年10月11日(日本公開)
  • 上映時間:115分
  • 監督:本広克行
  • 脚本:君塚良一
  • 音楽:武部聡志、(シリーズ音楽)松本晃彦
  • 製作:フジテレビジョン、BSフジ、東宝 ほか
  • 配給:東宝
  • 位置づけ:『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ映画であり、映画2部作「敗れざる者/生き続ける者」の前編。後編『室井慎次 生き続ける者』は2024年11月15日に公開。

キャスト紹介

役名キャスト役どころ
室井慎次柳葉敏郎元・警察庁長官官房審議官。青島と「警察組織を変える」と誓った男。今は秋田の山間部で里親をしながら暮らしている。
日向杏福本莉子室井の前に突然現れる謎の少女。その正体は、かつて湾岸署が逮捕した猟奇殺人犯・日向真奈美の娘。
森貴仁(タカ)齋藤潤母親を殺害された過去を持つ高校生。室井のもとで暮らす里子の一人。
柳町凛久(リク)前山くうが/前山こうが父親が犯罪者というレッテルを背負っている少年。タカと同じく室井の里子。
桜章太郎松下洸平警視庁捜査一課の刑事。どこか“青島っぽさ”を感じる熱血タイプで、室井の事件に深く関わっていく。
乃木真守矢本悠馬秋田県警北大仙署の地域課の警官。室井が暮らす山間部で、遺体発見のきっかけとなる調査に関わる。
新城賢太郎筧利夫秋田県警本部長。かつての室井の同僚であり、今作では室井に捜査協力を依頼する立場。
沖田仁美真矢ミキ警察庁長官官房審議官。室井に秋田県警本部長のポストを提示する。組織の論理側を体現する存在。
緒方薫甲本雅裕捜査一課の刑事。室井の古い仲間であり、合同捜査で再会する。
奈良育美生駒里奈弁護士。タカの母を殺害した犯人の弁護を担当し、タカに“加害者側に有利な証言”を持ちかける。
大川紗耶香丹生明里タカの同級生。偏見と好奇心の入り混じった“田舎の高校生”の目線を象徴するキャラ。
石津紀子飯島直子牧場を営む地元住民。外から来た室井や子どもたちに対し、複雑な感情を抱いている。
石津百男小沢仁志紀子の夫。無骨で一見怖いが、村の“空気”を体現する存在。
長部音松木場勝己地区長。村の“秩序”を守ろうとする立場から、室井たちを見ている。
ほか稲森いずみ、いしだあゆみ ほか児童相談所職員や商店の人々として、室井たちを取り巻く大人たちを演じる。

あらすじ※ネタバレあり

※ここからストーリーの核心に触れます。未見の方はご注意ください。

青島俊作と「警察組織を変える」と約束した室井慎次は、その後“警察庁組織改革推進委員会”の委員長を務め、5年間ひたすら組織改革に挑んできました。ですが結果は空振り。委員会は解散となり、出世コースのポストを打診されるも、室井はそれを拒み、定年前に警察を去ります。

彼が向かったのは、故郷・秋田の山奥。三ツ池のほとりの古い一軒家で、室井はひっそりと暮らしていました。そこには、3年前に母親を殺された高校生・タカと、父親が犯罪者として服役中の少年・リクという、2人の“傷を負った子どもたち”も一緒にいます。室井は里親として、彼らの居場所になろうとしていましたが、村人たちは「犯罪に関係した子どもたち」と彼らを冷たい目で見るばかり。

ある日、家の近くの草木が一部だけ枯れ、悪臭も漂っていることに気づいた室井は、地元署の警官・乃木に調査を依頼します。掘り返された地中から出てきたのは、腐乱した遺体と洋梨の箱。すぐさま合同捜査本部が立ち上がり、室井はかつての仲間・緒方薫らと再会。やがて、その遺体が“レインボーブリッジ事件”の犯人グループの一員・瀬川吉雄であることが分かります。瀬川は出所後も、特殊詐欺と強盗に手を染めていた男でした。

捜査が動き出した頃、室井は自宅の離れで倒れているひとりの少女を見つけます。彼女は記憶が曖昧な様子で、タカやリクと同じように、室井の家で暮らし始めます。名前は杏。明るく懐っこいが、どこか影のある少女です。

しかし、室井は彼女に得体の知れない違和感を覚え、東京の“警視庁捜査資料管理センター”で働く明石に身元調査を依頼。しばらくして杏の正体が判明します。彼女は、かつて湾岸署が逮捕した猟奇殺人犯・日向真奈美の娘――日向杏でした。その出産は獄中で行われ、これまで世間から完全に隠されていた存在だったのです。

杏は、タカとリクに「室井さんに殴られた」と嘘をつき、2人の心を揺さぶり始めます。被害者家族であるタカ、加害者家族として見られるリク、そして“加害者本人の娘”である杏――3人のバランスは徐々に崩れ、室井の家の中にも不穏な空気が流れていきます。

一方、タカの母を殺した犯人の弁護人・奈良育美が室井の家を訪れ、「裁判で有利になる証言をしてほしい」とタカにお願いしてきます。タカは室井と共に拘置所へ向かい、母の命を奪った男・井戸川と面会。そこでタカは、自分と母が暴力団員と暮らしていた過去を真正面から語り、井戸川は言葉を失います。この対峙は、タカ自身の“真実と向き合う”大きな一歩でもありました。

そんな中、室井が辞退したはずのポストに座っている男――秋田県警本部長・新城賢太郎が室井の前に現れます。新城は室井に、今回の殺人事件の“裏”にあるものを匂わせながら、捜査への協力を強く要請。さらに、警視庁からは熱血刑事・桜章太郎もやって来て、「これは室井さん自身の事件でもある」と食い下がります。

事件は過去のレインボーブリッジ事件、特殊詐欺グループ、そして日向真奈美の娘・杏の存在と複雑に絡み合い、やがて室井の静かな日常をじわじわと侵食していきます。

ラスト、室井が家に戻ると、かつての警察官時代の制服などが置いてあった小屋が炎に包まれていました――。
“敗れざる者”であろうとした男の前に突き付けられる、あまりにも残酷な現実。物語は後編『室井慎次 生き続ける者』へとなだれ込んでいきます。


私の感想

室井が“戦う場所”を変えた映画

『踊る』シリーズの頃の室井って、“組織の中で孤立しながらも筋を通す人”というイメージでしたが、今作の室井はまったく別フェーズに入っています。
出世も権力も捨てて、山奥で“被害者家族・加害者家族の子どもたち”を引き取って暮らしている――この設定だけで、もう胸がいっぱいになりました。

「警察組織は変えられなかった」けれど、それでも“敗れざる者”でいたいから、目の前の子どもたちを守る道を選んだ。
タイトルの「敗れざる者」は、勝ち続けるヒーローではなく、“何度折れても立ち上がろうとする大人”のことなんだな、としみじみ感じました。

秋田の山奥がつくる“閉じた世界”の怖さ

今作は、湾岸署のような都会のビル群ではなく、雪と山と霧に包まれた秋田の田舎町が舞台。
このロケーションが本当に良くて、

  • 「犯罪者の家族」
  • 「被害者の家族」
  • 「元・警察官」

といったレッテルが、狭いコミュニティの中でどれだけ重くのしかかるかを、景色そのものが語っているようでした。

人の視線が痛いほど刺さるのに、逃げ場はどこにもない。
あの閉塞感は、『踊る』の軽快さに慣れていると、かなりズシっときます。

杏という存在の“複雑さ”

個人的にいちばん心をかき回されたのは、日向杏というキャラクターです。

  • 被害者でもあり、加害者側の血を引く存在でもある
  • 室井の家で一時的には“家族”になりかける
  • でもどこか不穏で、何を信じていいのか分からない

福本莉子さんの“透明感+怪しさ”のバランスが絶妙で、「この子は本当に何を考えているんだろう?」とずっと目が離せませんでした。

「親が犯した罪」と、「子ども自身の生き方」は切り離せるのか。
この作品はそこに明確な答えを出してくれないぶん、観る側にめちゃくちゃ考えさせてきます。

タカとリクの物語が刺さる

タカが加害者に向き合うシーンは、かなりグッとくる場面でした。
被害者側だからといって、過去の自分が100%正義だったわけではない――
その“居心地の悪い真実”を、まだ若い彼が言葉にしているところに、この作品の覚悟を感じます。

リクの“父が犯罪者であること”を背負わされる苦しさも、かなりリアル。
「子どもにまで罪を背負わせるのか?」という理不尽さと、「でも現実の社会ってそうだよね」という重たい納得が同居していて、観ていて心がざわざわしました。

『踊る』ファン的にはどうか?

正直に言うと――
スカッと爽快な刑事ものを期待して観ると、だいぶ重いです。

  • 青島が前線で走り回る感じ
  • 和久さんの名言でフワッと救われる感じ

ああいう“エンタメとしての気持ちよさ”とは方向性が違って、今作はかなりシビアで地味めなトーン。
ただ、過去作の映像が差し込まれたり、桜がどこか青島を彷彿とさせるキャラだったりと、「あの時代と今がちゃんと地続きなんだ」と実感できる演出にはニヤッとしました。

「レジェンドシリーズの続き」としてよりも、
“室井慎次というひとりの大人の物語”として観ると、グッと入ってきます。

良かったところ・気になったところ

良かったところ

  • 室井の“敗北”と“それでも前に進もうとする姿”が丁寧に描かれている
  • 秋田ロケの空気感が、物語の重さと見事にマッチ
  • 被害者家族/加害者家族/加害者の子…という構図を、安易に白黒つけずに描いている
  • 杏、タカ、リクの三角関係的な心理戦が見応えあり

気になったところ

  • テーマが多層的で、情報量も多いので、人によっては“重すぎる”&“分かりづらい”と感じるかも
  • 前編だけだと、どうしても「ここからどう回収するの?」という消化不良感は残る(完全に後編前提の構成)
  • 『踊る』ノリのコメディやテンポを期待すると、「全然違う作品」に見える可能性あり

こんな人におすすめ

  • 『踊る大捜査線』シリーズを追いかけてきた人(特に室井が好きな人)
  • 犯罪そのものより、“犯罪が残した傷”に焦点を当てた作品が好きな人
  • 親と子、加害者と被害者、地方コミュニティなど、社会テーマ系のヒューマンドラマを観たい人
  • 「正義って何?」と考えさせられる映画が好きな人

逆に、「難しいことは考えずにスカッとした刑事アクションを観たい!」という気分の日には、ちょっとタイミングをずらした方がいいかもしれません。


まとめ

『室井慎次 敗れざる者』は、
“出世コースを降りたその後のヒーロー”の物語であり、
**“犯罪の影響を受けた子どもたちの物語”**でもあります。

室井は警察組織を変えることには“敗れた”のかもしれない。
でも、目の前の子どもたちに寄り添い続ける姿は、まさに「敗れざる者」。

『踊る』の続編として観るか、ひとつの社会派ドラマとして観るかで、だいぶ印象が変わる作品だと思います。
後編『生き続ける者』まであわせて観て、初めてこのタイトルの意味が全部見えてくるタイプの二部作なので、前後編セットでの視聴がおすすめです。

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