Netflix『トングン -呪いの宮-』感想|怖いのは、もののけじゃなかった

配信初日の夜、1話だけ観るつもりでした。

気づいたら深夜2時を回っていて、4話まで来ていた。翌朝ちゃんと仕事があるのに。こういうことをやらかすドラマは年に何本もないので、それだけで自分の中では合格点です。

『トングン -呪いの宮-』は、2026年7月17日からNetflixで独占配信されている全8話のリミテッドシリーズ。ナム・ジュヒョクの除隊後初主演作、ということで注目していた人も多いと思います。

で、結論から言うと──前半と後半で、完全に別のドラマになります

これが本作の一番おもしろいところであり、たぶん賛否が割れている最大の理由でもある。実際、韓国では配信直後にNetflixの「今日のシリーズTOP10」で1位、日本でも5位に入りながら、レビューの評価は見事に真っ二つに割れました。

この記事では、前半でネタバレなしの感想、後半で最終回まで含めたネタバレあり感想を書いていきます。区切りははっきり入れるので、まだ観ていない方も安心して読み進めてください。


目次

『トングン -呪いの宮-』の作品情報とあらすじ

まずは基本情報から。

項目内容
タイトルトングン -呪いの宮-(原題:동궁/東宮)
配信Netflix(2026年7月17日より独占配信)
話数全8話(リミテッドシリーズ)
演出チェ・ジョンギュ
脚本クォン・ソラ、ソ・ジェウォン
ジャンルファンタジー・ミステリー時代劇

あらすじ

奇怪な霊が住み着き、呪われた場所として忌み嫌われている王宮の「東宮(トングン)」。

王室で起きた怪異を解決するため、王の命を受けた二人が、この禁じられた宮へ足を踏み入れます。一人は霊界を行き来できる”もののけ捕り”のグチョン。もう一人は、生まれつき死霊の声が聞こえる宮女のセンガン。

生者と死者が入り混じる緊張感のなか、二人は東宮の最も暗い場所に隠された呪いの正体を追っていく。そしてその糸を手繰った先に待っていたのは、30年前に王家で起きたある悲劇でした──。

あらすじだけ読むと「よくあるオカルト時代劇か」と思うかもしれません。私も最初はそう思っていました。そう思っていた自分を、5話あたりで殴りたくなります。

キャスト

  • グチョン:ナム・ジュヒョク
  • センガン:ノ・ユンソ
  • 王(イヨン):チョ・スンウ
  • 世子(セジャ):クァク・ドンヨン
  • 大妃(テビ):チャン・ヨンナム
  • 中殿:パク・スヨン
  • 益祥君:テ・インホ
  • 淑嬪・崔:ファン・ヨンヒ

この並びを見て「あ、これは大丈夫なやつだ」と思った人は正しい。特にチョ・スンウとチャン・ヨンナムが同じ画面にいる時間帯の圧が異常です。詳しくは後述します。

制作陣がまた”わかってる”人選

演出のチェ・ジョンギュ監督は『悪魔判事』『赤い月青い太陽』の人。脚本のクォン・ソラ、ソ・ジェウォンは『客-ザ・ゲスト-』『不可殺 -永遠を生きる者-』を書いたコンビです。

つまり韓国オカルト・サスペンスの主戦力が一箇所に集まっている。この座組みで面白くならないほうがおかしい、という期待値の高さは、良くも悪くも本作の評価に影響していると思います。


【ネタバレなし】『トングン -呪いの宮-』を観た正直な感想

ここからは結末に触れずに書いていきます。

1〜4話は「ダークオカルト・アクション」

前半4話は、ほぼモンスター・オブ・ザ・ウィーク的な作りです。

グチョンとセンガンが怪異と対峙して、一話ごとにひとつずつ謎を潰していく。韓国の伝承に出てくる「キメ(貴魅)」と呼ばれるもののけたちが次々に登場して、そのビジュアルがいちいち凝っている。

正直、このパートは**「絵を観るだけで元が取れる」**タイプの面白さです。霊界の質感、宮の闇の落とし方、松明の明かりが届かない範囲の”黒”の作り方。美術とVFXに相当な予算と手間が入っているのがわかる。

ただし、ここで「毎週怪異を退治するバディものだな」と思って観ていると、後半でハシゴを外されます。

5〜8話で、宮廷サスペンスに化ける

5話あたりから、カメラが向く先が変わります。

もののけから、人間へ

王、大妃、世子、そして王位を狙う者たち。呪いの正体を追っていたはずが、いつの間にか30年前の王位継承争いの真相を掘り返す話になっている。オカルトの皮をかぶった、極めて生々しい権力闘争の物語です。

このトーンチェンジが本作最大の分岐点で、「後半の心理戦のほうが圧倒的に面白い」という人と、「もっともののけ退治が観たかった」という人にきれいに分かれています。

私は完全に前者でした。というより、このドラマが本当に描きたかったのは最初から後半のほうだったんじゃないかと思っています。前半のオカルトは、後半の人間の醜さを見せるための壮大な前フリだった、という読み方です。

チョ・スンウの王が、怖い

演技の話をさせてください。

このドラマ、もののけよりチョ・スンウのほうが怖いです。断言します。

彼が演じる王は、声を荒げるシーンがほとんどありません。ずっと静かで、穏やかで、理知的で。だからこそ、その静けさの下に何が沈んでいるのかがわかった瞬間の落差がとんでもない。特に、ある人物に問い詰められた場面で彼が”あること”をやってみせるシーンがあるんですが、あそこで私は思わず「いや待って」と声が出ました。

チャン・ヨンナム演じる大妃も同じです。画面の端に立っているだけで圧がある。日本の視聴者からも「画面からずっとものすごい圧を感じた」という声が出ていましたが、まったく同感です。

ベテラン二人が黙って向かい合っているだけで緊張する時間、というのは、演技力のある俳優を揃えないと絶対に作れない。ここは本作の明確な財産だと思います。

ナム・ジュヒョクは”変わった”

除隊後初主演ということで、正直どう変わっているのか気になっていました。

結論、変わっていました。

これまでの爽やかで少年っぽい役どころとは違って、今回のグチョンは影がある。もののけと取引をして、鎖に繋がれ、自分の意思では宮から出られない男。にもかかわらず、口を開くとどこか飄々としていて軽い。この軽さと重さのギャップが、彼の新しい引き出しとしてよく効いています。

真剣な表情になった瞬間に温度が一気に下がる。あの落差が今回の彼の武器です。

ノ・ユンソの初時代劇が、想像以上によかった

センガン役のノ・ユンソは、本作が初の時代劇。

正直、最初の1〜2話は少し硬いかなと思っていました。でも4話を超えたあたりから完全に化けます。特に彼女が「聞こえてしまう」ことの苦しみを演じるシーン、あれは初時代劇の人がやっていい芝居じゃない。

グチョンとの関係も、恋愛だと明言しないまま距離だけがじりじり縮まっていく描き方で、これがまた上手い。言葉にしないから信じられるタイプの関係性です。

コモクサリという発明

そして本作の裏MVP、コモクサリ。

グチョンのそばにいる小さな黒いもののけです。SNSでは「かわいすぎる」「朝鮮版グルート」と呼ばれて完全にバズりました。Netflix Korea公式が「【速報】ソウル都心にコモクサリ出現」という特別映像まで出す始末。

おもしろいのは、このコモクサリが元ネタからしてちゃんと韓国の怪談の住人だということ。「コモク(꺼먹)」は漆黒の闇、「サリ(살이)」は生きる者。伝承では真っ黒な小さな子どもの姿で、山道で「私はコモクサリ、コモクサリ……」と自分の名を唱えながら人を追いかけてくる、そこそこ不気味な妖怪です。

それを、あんな愛らしい相棒に再解釈してみせた。この一点だけでも、この作品の世界観づくりの解像度の高さが伝わると思います。

気になったところも正直に

褒めてばかりもフェアじゃないので、引っかかった点も書きます。

ひとつは、中盤の情報整理がやや不親切なこと。怨霊の正体と黒幕が二転三転するので、「今どっちの話をしている?」と一瞬迷う場面がありました。ながら見だと確実に置いていかれます。

もうひとつは、霊界のビジュアルがどこかで観たような既視感を伴うこと。韓国国内のレビューでも「海外作品を思わせる」という指摘が出ていました。せっかく土着の伝承ベースで構築した世界なので、そこはもう一歩ケレン味が欲しかったかな、というのが正直なところです。

とはいえ、この2点は「もっと良くなれたはず」という不満であって、「つまらない」ではありません。そこは誤解のないように。

こういう人に刺さると思う

  • 『キングダム』のようなKオカルト時代劇が好きな人
  • 怪物より人間の欲望のほうが怖いという話が好きな人
  • チョ・スンウ、チャン・ヨンナムの芝居を浴びたい人
  • ナム・ジュヒョクの新しい引き出しが観たい人
  • 全8話で完結する、週末で片付く尺の作品を探している人

逆に、最後まで純粋なモンスターアクションを期待している人は、後半で肩透かしを食らう可能性があります。そこだけ先に言っておきます。


総合評価

★★★★☆(4.0)

前半の世界観構築と後半の心理戦、どちらも高水準。ただし両者の接続がもう少し滑らかだったら文句なしの満点でした。

「呪い」というタイトルを掲げながら、最終的に呪いの正体は人間の側にあったと着地させる構造は好みです。8話という尺も、韓国時代劇にありがちな中だるみがなくて良かった。

配信はNetflix独占。全8話一挙配信なので、金曜の夜から日曜にかけて一気に行けます(そして確実に寝不足になります)。


⚠️ ここから先はネタバレあり

最終回(第8話)の結末まで触れます。未視聴の方はここでブラウザを閉じてください。


【ネタバレあり】『トングン -呪いの宮-』の呪いの正体と最終回の考察

30年前の「呪い」は、呪いですらなかった

この作品の一番の仕掛けはここだと思っています。

物語の発端になっている30年前の王家の連続不審死。作中でずっと「呪い」として語られてきたあの事件は、実際には人為的な毒殺でした。王位を得るために仕組まれた殺人であり、「呪い」はその都合のいい隠れ蓑として使われていた。

つまり、東宮の呪いという物語そのものが、権力を握った側が作った物語だったわけです。

これ、めちゃくちゃ嫌な構造ですよね。人が人を殺しておいて、「これは呪いのせいだ」と言えば宮全体がそう信じてしまう。そして誰も真相に近づかなくなる。オカルトが、隠蔽の道具として機能している。

このドラマが単なるお化け退治で終わらないのは、この一点があるからだと思います。

世子が怨霊になった理由が、あまりに悲しい

7話で明かされる世子(クァク・ドンヨン)の真実が、個人的には本作で一番しんどかった。

彼もまた、死霊の声を聞く力を持っていた。そして30年前に父が兄弟を殺して玉座を得たのとまったく同じ方法で、自分も王位のために兄弟を手にかけた。それが王に露見して、毒殺された。

父と同じことをして、父に殺された。

つまり彼の怨念は、単に「殺された恨み」じゃないんです。この宮のやり方をそのまま踏襲しただけなのに、なぜ自分だけが裁かれるのかという叫びでもある。呪いは血で継承される、という本作のテーマがここで一気に立ち上がります。

クァク・ドンヨンの芝居がまた良くて、怨霊化してからの目つきの変化が本当に怖い。彼、こういう役をやらせると異様に上手いですよね。

大妃と益祥君──呪いを「使う」側の人間たち

そしてもう一段えげつないのが、大妃と益祥君の動きです。

彼らは世子の怨霊を鎮めようとするどころか、王を陥れる道具として利用しようとする。巫堂を使って怨霊を焚きつけ、王宮を混乱させ、そこに乗じて王位を狙う。

呪いを作った側(王)と、呪いを利用する側(大妃たち)。生きている人間が、死者の恨みを政治の駒として扱っている。

このドラマにおける最悪の怪物は、間違いなくこの構図です。もののけは腹が減って人を食うだけですが、人間は目的のために死者の苦しみを引き延ばす。どちらがマシかという話でもない。

王が謝罪する8話のシーンについて

最終回で私が一番効いたのは、アクションでも決戦でもなく、王が疫病患者たちに心から謝罪する場面でした。

彼は疫病の拡大を防ぐために患者たちを皆殺しにした。その悪霊たちが世子の怨霊に呼び寄せられ、王宮に集まってくる。そして王が本気で詫びた瞬間、彼らは成仏を始める。

ここ、めちゃくちゃ大事な描写だと思うんです。

つまりこのドラマは、呪いを解く方法は退治ではなく、認めることだと言っている。剣でも呪術でもなく、加害者が加害を認めること。8話かけてもののけと戦ってきた物語が、最後にそこへ着地するのは相当誠実な脚本です。

一方で、そこまでやっても大妃と淑嬪・崔は錯乱したまま宮を去り、益祥君は半狂乱で巫堂を殺害する。救済されるのは謝った者だけで、最後まで認めなかった者は救われない。この非対称も容赦がなくて良い。

グチョンの自刃と、センガンの呼びかけ

グチョンが自ら命を絶ってもののけの世界へ渡り、原初のもののけの力を借りて世子と対峙する。センガンを守るために、悪鬼になることさえ恐れずに。

正直、この展開自体はやや駆け足に感じました。8話に詰め込みすぎというか、もう1話あればもっと丁寧に描けたはずです。

ただ、そのあとがいい。

目を覚まさないグチョンのそばを、コモクサリが離れない。それを見てセンガンは「彼はまだ生きている」と確信する。そして彼が母と生き別れた川へ行き、彼の魂に向かって心の内をぶつける。すると水面が波立つ。

言葉で説明せず、水面の揺れだけで生還を示す。この演出は本当に良かった。コモクサリという”かわいい相棒”を、ここで生死の証人として機能させる設計も含めて、うまい。

ラストの鎖──あれは何を意味するのか

そして、あの終わり方です。

呪いは解け、王はグチョンが生きて宮を出ることを認める。センガンもついていくと決め、グチョンは苦笑いしながらそれを受け入れる。二人とコモクサリは、当てのない旅に出る。

一応のハッピーエンド。

でも、グチョンの腕に繋がれたもののけの鎖は、依然として王宮に繋がったまま。

このラストカットで、私は「ああ、そういうことか」と背筋が寒くなりました。

解釈はいくつかあると思います。ひとつは、シーズン2への露骨な引き。もうひとつは、呪いは終わっていないという宣言。そして個人的に一番しっくりくるのは、三つ目の読み方です。

つまり──宮という装置がある限り、そこに繋がれる者は必ず現れる、という話。

30年前の王も、世子も、大妃も、グチョンも、玉座に近づいた者は全員この宮に縛られた。呪いの正体は個人の怨念ではなく、権力構造そのものだった。だから王座に座る王のもとには、依然として浮かばれない魂が彷徨っている。あの鎖は、その構造がまだ生きていることの可視化なんじゃないか、と。

もしそうだとしたら、あのラストは「ハッピーエンドに見せかけた最も暗いカット」ということになります。

続編はあるのか

本作はリミテッドシリーズとして企画されていて、この記事を書いている時点(2026年7月20日)では続編に関する公式アナウンスは確認できていません。

ただ、あの鎖の意味を考えると、作り手側が完全に扉を閉じたとは思えない。死霊を見る目を得たグチョン、死霊の声を聞くセンガン、そしてピンチで巨大化するコモクサリ。この3人(2人と1匹)のキャラクター設定を一作で終わらせるのは、正直もったいなさすぎます。

グチョンが宮に繋がれるまでの空白期間を描く前日譚でもいい。個人的には、この座組みでもう一度観たい。


まとめ|『トングン -呪いの宮-』は”人間が怖い”時代劇だった

もののけが出てくる話だと思って観始めて、最後には人間の話を見せられていた。

そういう作品でした。

映像は間違いなくトップクラス。演技も、特にベテラン勢は文句のつけようがない。脚本の情報整理にやや不親切な部分はあるけれど、それを補って余りある「呪いとは何か」というテーマの掘り下げがあります。

賛否が割れているのも納得です。でもこれは、割れるくらい何かを狙った作品の割れ方であって、無難に作って誰にも刺さらないより百倍いい。

全8話。週末があれば終わります。ただし寝不足の責任は取りません。

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