映画『まる』レビュー
映画『まる』は、2024年10月18日に公開された荻上直子監督・脚本による作品で、堂本剛が27年ぶりに映画単独主演を果たした奇想天外なドラマです。
作品情報
- 公開日: 2024年10月18日
- 上映時間: 117分
- 監督・脚本: 荻上直子
- 音楽: .ENDRECHERI./堂本剛
- 配給: アスミック・エース
キャスト紹介
役名 | キャスト | 役柄 |
---|---|---|
沢田 | 堂本剛 | 主人公。アートで成功できず、SNSで「○」がバズり、一躍有名なアーティスト「さわだ」となる。 |
横山 | 綾野剛 | 沢田の隣人で売れない漫画家。自由奔放だが、沢田の変化を見守る。 |
矢島 | 吉岡里帆 | 沢田のアトリエ仲間。彼の成功を喜びながらも複雑な思いを抱く。 |
モー | 森崎ウィン | 沢田が通うコンビニの店員。何気ない一言が沢田の心に響く。 |
田中 | 戸塚純貴 | 沢田の昔の友人。サラリーマンとして安定した生活を送り、沢田の成功を複雑な目で見る。 |
吉村 | おいでやす小田 | 美術評論家。沢田の「○」を哲学的に評価し、世間に広める。 |
大家さん | 濱田マリ | 沢田が住むアパートの大家。ぶっきらぼうだが、沢田を気にかける。 |
先生 | 柄本明 | 美大時代の教授。沢田にとって重要な助言を与える存在。 |
土屋 | 早乙女太一 | アート業界の若手実力者。沢田の成功を利用しようとする。 |
古道具屋の店主 | 片桐はいり | 沢田が通う古道具屋の店主。彼の作品を静かに見守る。 |
秋元洋治 | 吉田鋼太郎 | 現代美術界の巨匠で沢田の元上司。彼の才能を評価しつつも複雑な感情を抱く。 |
若草萌子 | 小林聡美 | アート業界のキーパーソン。沢田の才能を世に広めようとするが、裏にはビジネス的な思惑もある。 |
あらすじ※ネタバレあり
美大を卒業した沢田(堂本剛)は、かつては自身のアートで成功することを夢見ていた。しかし現実は厳しく、才能を評価されることなく、人気現代美術家・秋元洋治(吉田鋼太郎)のアシスタントとして働いていた。沢田は黙々と秋元の指示に従い、作品の手伝いをする日々を過ごしていたが、次第に「自分の作品を生み出す」という気持ちを失い、ただ生活のために仕事をするだけの存在となっていた。
ある日、沢田は通勤途中の雨の坂道で自転車事故に遭い、右腕を負傷してしまう。利き腕を使えなくなったことで、アシスタントの仕事を続けることが難しくなり、秋元のアトリエを解雇されてしまう。無気力なまま、古びたアパートに戻ると、部屋の床に1匹の小さな蟻が歩いているのを見つける。沢田は何気なく、その蟻が進んでいく方向を見つめながら、左手で紙に円を描き始めた。
翌日、沢田は何の気なしにその○(まる)の絵をSNSに投稿する。すると、そのシンプルな図形が突如として話題を呼び、多くの人が「この○には何か意味があるのでは?」と憶測し始める。フォロワーは爆発的に増え、メディアも騒ぎ出し、いつの間にか沢田は「さわだ」という正体不明のアーティストとして注目を浴びることになる。
アート界だけでなく、SNSインフルエンサーや評論家たちも「○の持つ哲学的意味」「これは新しい芸術の形だ」と次々に解釈を加えていき、世間は彼の作品に熱狂し始める。やがて沢田は大手ギャラリーからの展示依頼を受け、個展を開くまでになる。しかし、彼自身は「○はただの○でしかない」と感じており、周囲の評価が膨れ上がっていくことに違和感を抱く。
そんな中、沢田の周囲にはさまざまな人々が集まる。売れない漫画家・横山(綾野剛)、彼を心配するアトリエ仲間の矢島(吉岡里帆)、コンビニの店員モー(森崎ウィン)など、それぞれが沢田の変化に影響を与えていく。さらに、美術界の大物である秋元洋治やギャラリー関係者たちも彼に近づき、次第に「さわだ」というブランドを作り上げようとする。
沢田自身も、自分が何を描いているのか、なぜ人々が○に惹かれるのかが分からなくなっていく。次第に、彼の中で「本当に自分が描きたいものとは何なのか?」という疑問が大きくなっていき、芸術とは何か、表現とは何かという深い問いに直面することになる。
やがて沢田は、自らが生み出した「○」というシンプルな形が、世間の期待や商業的な価値観によって勝手に意味づけされ、それによって自分のアイデンティティが見失われていくことに気づく。そして、「本当の自分とは何か?」という問いを胸に、沢田はある大胆な決断を下す——。
映画『まる』は、SNS時代におけるアートの価値、自己表現と社会の評価の間で揺れ動くアーティストの葛藤を描いた作品であり、観る者に「表現とは何か?」という問いを投げかける作品となっている。
私の感想
映画『まる』を観て、最初は「○(まる)」というシンプルなモチーフがどう物語に絡んでくるのか気になっていました。でも、観終わる頃には、「表現って何だろう?」「評価って誰が決めるんだろう?」と、いろいろ考えさせられていました。
主人公・沢田(堂本剛)は、アートの世界でくすぶり続ける普通の青年。そんな彼が、偶然描いた「○」で一躍時の人になってしまう展開は、今のSNS時代ならではのリアルさを感じました。最初は他人事のように受け入れていた沢田が、次第にプレッシャーを感じ、やがて「自分とは何か?」と悩み始める姿には共感する部分もありました。
沢田の周りの人たちも個性的で、隣人の横山(綾野剛)のちょっと適当だけど鋭いツッコミや、アトリエ仲間の矢島(吉岡里帆)の真っ直ぐな想いが、沢田の変化を際立たせていたように思います。美術評論家の吉村(おいでやす小田)の「○」に対する考察がやたら深かったり、沢田を取り巻く大人たちの思惑が交錯したりするあたりも面白かったです。
そして何より、堂本剛さんの演技が素晴らしかったです。淡々としているようで、心の奥で揺れ動く沢田の感情が伝わってきて、どこか放っておけない雰囲気がありました。普段の彼のアーティスティックな感性とも重なる部分があって、まさにハマり役だったと思います。
全体を通して、アートや自己表現だけでなく、「人はなぜ評価されたいのか」「成功って本当に幸せなのか」といったテーマも描かれていて、観た後にじわじわくる作品でした。アートに詳しくなくても、SNS時代の“バズる”ことへの違和感や、人との関わりの難しさを感じたことがある人には刺さる映画だと思います。
気軽に観られるけれど、観た後にいろいろ考えさせられる不思議な映画。ラストの沢田の選択にも、「なるほど」と思わされました。観る人によって受け取り方が違う作品なので、ぜひ自分なりの答えを探しながら観てほしい一本です。
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