WOWOWドラマ『落日』湊かなえ 原作
イントロダクション
WOWOWの連続ドラマW『落日』は、湊かなえの同名小説を映像化したミステリー作品。湊かなえ特有の緻密な心理描写と、過去の事件を軸に進むサスペンス要素が融合した物語である。主演には北川景子、吉岡里帆、竹内涼真という実力派俳優が揃い、ドラマならではの演出と映像美が加わり、原作の持つ奥深さをより際立たせている。物語の舞台となるのは、15年前に起きたある一家殺害事件。その真相を追う映画監督と脚本家が、次第に事件に巻き込まれていく――。
作品情報
- タイトル: 『落日』
- 放送局: WOWOW
- 放送期間: 2023年9月~
- 原作: 湊かなえ『落日』
- 脚本: 吉田紀子
- 監督: 内田英治
- 制作: WOWOW
キャスト紹介
- 北川景子 … 長谷部香(映画監督)
- 吉岡里帆 … 甲斐真尋(脚本家)
- 竹内涼真 … 立石力輝斗(死刑囚)
- 久保史緒里(乃木坂46) … 立石沙良(力輝斗の妹)
- 黒木瞳 … 大畠凜子(真尋の師である大物脚本家)
ネタバレあらすじ
新進気鋭の映画監督・長谷部香(北川景子) は、次回作の題材として、15年前に故郷の笹塚町で起きた「笹塚町一家殺害事件」 を映画化しようと考える。事件の犯人とされたのは、高校生だった立石力輝斗(竹内涼真)。彼は妹・立石沙良(久保史緒里) を刺殺し、自宅に放火。その火事により両親も死亡したとされていた。
しかし、香はこの事件の裏にまだ明らかになっていない事実があるのではないかと考え、笹塚町出身の新人脚本家・甲斐真尋(吉岡里帆) に脚本執筆を依頼する。事件当時、真尋は笹塚町に住んでおり、亡くなった沙良とも接点があった。しかし、事件について深く関わるうちに、真尋は過去の記憶と事件の真実が徐々に食い違っていることに気づくようになる。
映画化の意図と香の過去
香は、自身の過去とこの事件の関係を強く感じていた。彼女は幼少期、母親からの虐待に近い厳しいしつけを受け、ベランダに閉め出される ことがあった。その時、隣の部屋の誰かと防火壁越しに手を握り合い、励まし合っていた 記憶がある。香はそれが事件の被害者・沙良だったと思っていたが、調査を進める中で、実は手を握っていた相手は立石力輝斗だった のではないかと考え始める。
力輝斗は凶悪な殺人犯とされていたが、彼を知る人々の証言を集めるうちに、香は「彼が本当にそんな人物だったのか?」と疑問を持つようになる。
真尋の過去と沙良の素顔
一方、脚本家の真尋もまた、この事件と自身の過去が大きく関わっていることを知ることになる。彼女の姉・甲斐千穂 は、高校1年生の時に交通事故で亡くなっていた。しかし、その事故の背景には、実は立石沙良の存在があった ことが判明する。
沙良は学校では無邪気で明るい少女 という印象を持たれていたが、実際は虚言癖を持ち、人を巧妙に操る危険な一面を持っていた。彼女は兄・力輝斗を追い詰めるため、力輝斗の恋人であった千穂を事故に巻き込んだのだった。つまり、真尋の姉・千穂の死は、沙良の策略によるものだった可能性が高い。
真尋はこの事実を知り、香と共に事件の再検証を進めることになる。
事件の真相:力輝斗は本当に犯人なのか?
調査を進める中で、次第に浮かび上がるのは、事件当日の別の可能性 だった。世間では「力輝斗が妹を刺殺し、その後自宅に放火した」と認識されていたが、実際には次のような真相が明らかになる。
- 沙良は、過去に力輝斗の恋人だった千穂を事故に巻き込み、結果的に殺した。
- 力輝斗は、その事実を知り、沙良と激しく口論になった。
- その際、沙良は挑発的な態度を取り、力輝斗の怒りを買った。
- 力輝斗は衝動的に沙良を殺害。
- その後、家族の歪んだ関係性を思い知り、家に火を放った。
- 結果的に、両親もその火事で命を落とすことになった。
つまり、力輝斗は確かに妹を殺したが、それは長年の鬱屈した感情と、妹の非道な行為が引き金となった事件だった のだ。
しかし、この事実は公にされることなく、力輝斗は世間から冷酷な殺人者として裁かれた。
結末:香と真尋が辿り着いた真実
香と真尋は事件の真相にたどり着くが、それは「力輝斗の冤罪を晴らす」ものではなく、「彼の犯行の背景を正しく理解する」ことだった。
真尋は、自分の姉を間接的に死に追いやった沙良に対して憎しみを抱くが、それと同時に、沙良がどのような家庭環境で育ち、なぜあのような人格になってしまったのかを考えるようになる。
一方、香もまた、自分が過去に握っていた手が力輝斗のものであったと確信し、彼の人生がどのように狂わされてしまったのかを理解する。そして、映画を通じてこの事件の”本当の意味”を伝えようと決意する。
最終的に、映画は完成し、事件をめぐる新たな視点を世間に提示するものとなる。しかし、それによって力輝斗の運命が変わることはなく、彼は死刑囚としての人生を続けることになるのだった――。

私の感想
『落日』は、湊かなえ作品らしい人間の心理の闇を描いたサスペンスでした。特に、事件の被害者と思われていた立石沙良が、実は虚言と操作の天才であり、兄・力輝斗を精神的に追い詰めた事実が明らかになる展開が衝撃的です。
沙良は表向きは明るく無邪気だが、裏では兄を操り、真尋の姉・千穂を事故に巻き込み、周囲を欺いていた。彼女のサイコパス的な本性が家族を崩壊させ、最終的に力輝斗が妹を殺害するという最悪の結末を迎えた。
力輝斗は確かに罪を犯したが、彼はただの「加害者」ではなく、長年の苦しみの末に追い詰められた被害者でもあった。一方、香と真尋は事件の真相に迫る中で、「真実を知ることは本当に救いになるのか?」という問いと向き合うことになります。
サスペンスとしてのスリルもありながら、「人はなぜ人を傷つけるのか」「社会は加害者・被害者をどう見るのか?」 といった深いテーマが込められた作品でした。特に、北川景子さん、吉岡里帆さん、竹内涼真さんの演技が圧巻で、心理描写のリアルさが際立っていました。
事件の真相が明らかになっても、それが”救い”になるとは限らない——そんな余韻が強く残る、考えさせられるドラマでした。
まとめ
WOWOWドラマ『落日』は、単なるサスペンスを超えたヒューマン・ミステリーの傑作 だでした。事件の背後にある人間関係の複雑さや、記憶の曖昧さを描くことで、視聴者に「真実とは何か?」を考えさせる作品になっていました。
「事件を描くことが、誰かの救いになるのか?」
その問いが、最後まで強く響くドラマです。

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